楽器には「どれも同じ」ということがありません。イプヘケはもちろん、ウクレレやギターなどの弦楽器、太鼓やドラムなどの打楽器にも、ピンからキリまであります。
どれを買うか、どれを選ぶかで、音色や響きが大きく異なります。良いものを使えば、その楽器が好きになり、好きになれば上達も早くなります。
例えば、ウクレレで考えてみましょう。日本で多く流通している、アジアの国々でオートマチックに大量生産されているウクレレは、おもちゃの域を超えないものも多くあります。安価なこれらは初めてウクレレを触る人には良いかもしれません。しかし、ハワイで最も歴史のあるウクレレメーカーのひとつ、Kamaka Ukuleleでは、ウクレレの職人がすべて1本ずつ手作業で作り上げています。職人の作品は多少値が張りますが、作りも音も全く違います。
安いからといって、音色も分からないものを購入したり、フラを知らない人や、音色を奏でる知識を知らない人が作る楽器は、楽器と呼ぶには程遠いものです。
フラと生活を共にする私達にとって、楽器の選択は非常に大切なことです。ぜひ妥協のない楽器選びをしていただきたいと思います。安いものがすべて悪い、ということではありません。ただし、高いものには間違いが少ない、ということは言えるかもしれません。
手作りだからこそ、音色、使用用途、体格などにぴったりの、納得のできる楽器を手にすることができるのです。
私が作っているイプヘケは必ず試打をしながら、音色を調整し、最高の状態でご提供しています。
イプ(Ipu)について
『イプ(Ipu)』とはハワイ語で、英語では Gourd、日本語では「ひょうたん」という意味です。
フラの中で「イプ」と呼称する場合は、ひょうたん楽器のことを指し、イプヘケとイプヘケオレの2種類に大別することができます。
イプヘケ(Ipu Heke)とは上下に2つのイプが重なっている打楽器のこと
イプヘケの定義は、ハワイ語の言語学者、Mary Kawena Pukui (1895-1986)によると、"Gourd Drum with a top section (heke) "上の部分(ヘケ)がついた、ひょうたんのドラム、と訳すことが出来ます。
ハワイ語で "Heke(ヘケ)" には、「一番の」とか「上の」という意味があり、"Ipu Heke" という名称で、「上部にイプがついているイプ」という意味になります。
下の部分は'Olo(オロ)と呼び、2つのイプを上下に重ねたイプヘケの大きさは、大きなサイズとなります。
イプヘケには、2種類の Kaona(カオナ=ハワイ語で「隠された意味・本来の意味」)があります。
1つは、その形を体に例える言い方です。
この場合、Heke の部分を Po'o(ポオ=ハワイ語で頭)、'Olo の部分を Kino(キノ=ハワイ語で体)と呼びます。Heke は「頭」にあたるので叩かないという人もいますが、音色を求めて敢えて Heke を叩く人もいます。
もう1つは、Ipu Heke の形を男性の生殖器に例える言い方です。
"Kalākaua 王にまつわる 'Oli や Mele の多くは、間接的な表現として、"Kalākaua 王の生殖器のことを謳っている曲が多く残されており、"Kalākaua 王に関するカヒコでは、イプヘケは大きいものを使用するのが一般的となっています。
なお、Ipu と Heke はそれぞれ独立した単語なので、日本語表記では「イプ・ヘケ」と表記されるべきですが、ここでは一般的呼称として「イプヘケ」と記載しています。下記の Ipu Heke 'Ole(イプ・ヘケ・オレ)も同様に「イプヘケオレ」と記載しています。
Ho'opa'a(伴奏用)向け
Ho'opa'a(伴奏用)/ 'Olapa(ダンサー)兼用向け
イプヘケは、形状によって使用用途が異なります。
'Oloの部分が長いイプヘケは、Ho'opa'a(ホオパア:伴奏者)向けです。伴奏用として作られているため、オロのサイズが大きいのが特徴で、「U:ウー(ダウンビート)」の音を低く大きく、遠くの人まで聴かせるため、縦に長く、大きめに作られています。
ダウンビートの音を鳴らしたとき、ビリビリと響きながら、イプヘケ全体が細かく共振して「ドーン、ドーン」と響く音が出るイプヘケが理想的なイプヘケです。確かめる方法としては、Kaula(カウラ:ストラップ)を用いて、なるべくイプヘケを触らず、イプヘケ全体の響きを妨げないようにして、U(ウー)の音を鳴らしてみることです。全体が響くようなイプヘケの音が出たら、とても良いイプヘケと言えます。
板のように固いイプヘケは、「ドン、ドン」と、床を木槌で叩くような硬い音しか鳴りません。また、Pa'i(手で叩く)をしても、音が固く響かないため、いくら頑張って叩いても、手が痛くなるだけで音が響きません。床が芝生や、柔らかい場所では、いくら強く打ちつけても、叩いても、音が鳴りにくいでしょう。
ちなみに、この伴奏用のイプヘケを使って Hula Noho(フラノホ:座って踊るフラ)を踊る場合、イプヘケを頭の上で回す動作をすると、オロの部分が長く、ネックの位置が高くなりますので、いくら手を上に伸ばしてもイプヘケが挙上せず、踊っている時にオロが頭にぶつかるなど、踊るには扱いづらいと言えます。
'Olo が短いイプヘケは、Ho'opa'a 向けでもあり、'Olapa(オラパ:ダンサー)向けでもあります。オロの長さが適度に短いため、挙上しても頭より高い位置にイプヘケが上がり、重量も軽く作られています。ネックも細いため、持ちやすく、また、'Olo が短い分、横幅が広く作られています。そのため、イプヘケの大きさが小さくても、音に深みがでる構造になっています。
イプヘケオレのように横にして音を鳴らす場合、'Olo が長い Ho'opa'a 向けのイプヘケでは音が鳴らしづらいですが、’Olapa 向けのイプヘケは楽に良い音を鳴らすことができます。
イプヘケ・オレ(Ipu Heke 'Ole)とは上部がないイプのこと
Ipu Heke 'Ole(イプヘケオレ)は、'Ole(ハワイ語で「ちがう」「ない」という単語)が "Ipu Heke" の後についています。すなわち「上部がついてないイプ」と解釈でき、上部の部分が切ってあるものや、イプヘケのように2つのイプを重ねたものではなく、いわゆる「ひょうたん形」の1つのイプのことを指します。
形は小さいものが多く、フラの楽器として使用する場合は直径6インチ位から、大きくても直径が10インチ程度が適当となります。
イプヘケオレの大きいものを、Ho'opa'a 用として、伴奏に使う場合もあります。一般呼称としては、ハワイでも日本でも、イプ=イプヘケオレ、イプヘケ=イプヘケ、として区別されているようです。
イプの品種による違いと使い分け
イプはたくさんの品種があります。ここではフラ用に製作するイプの代表的な3つをご紹介します。
いわゆる"ひょうたん形"。首の部分が細い瓶のような形です。イプヘケオレに使用します。
全体的に丸く、茎との接合部分が少し盛り上がった形をしています。イプヘケの上部、Heke に使用します。
ハワイ語で本来の'Olo(オロ)の意味は、「水や Kawa(カバ 'Awa)を保存するための、細長く大きいイプや容器」のことを指します。保存するための容器ですので、大きいものが好まれますが、小さいイプは、水をいれて、水筒(オロバイ = 'Olo
wai) として使用されていました。ちなみにココナッツの殻を半分に割った、カバを飲むためのカップは 'Olo 'Awa(オロアバ)と言います。
'Oloは、フラでは、イプヘケの下に使用する細長い形のイプのことを指します。大きい入れ物、という'Olo の意味から、イプヘケの下部は、上部の Heke よりも大きく作るのが一般的です。これにより、イプヘケの上部を、Heke(ヘケ)、イプヘケの下部を、'Olo(オロ)と呼びます。
イプの特性とメンテナンス(お手入れ方法)
天然素材のイプの特性上、定期的なメンテナンスが必要となります。自然のものですので、メンテナンスの方法としては、「洗う」「乾燥させる」「保護オイルを塗る」の3つがあります。(合成塗料を使用したイプは、洗うことができません。)
イプは、かぼちゃ、へちま、スイカ、メロンと同様、ウリ科の植物であり、果実に水分をたくさん含んでいます。収穫後半年間から1年間かけて、ドライフルーツ状になるまで自然乾燥させます。その期間中は、果実中の水分によって腐食し、カビやコケが表面上に繁殖し、乾燥していきます。したがって、カビやコケの繁殖や、乾燥時に臭いが残ることは、避けて通ることができません。しかし、この過程がうまくいかないと、大規模な腐食が進んだり、虫食いが発生し、ほとんどの場合、果実が割れてしまいます。
また、無事に乾燥し、果実の重さが軽くなっただけでは、水分の蒸発が不十分な場合がほとんどです。この状態でラッカーなどの人工塗料を塗布すると、蒸発する水分の逃げ道がなくなり、腐食が早くなったり、菌の繁殖や、臭いの発生の原因となりますので、十分に乾燥させることが必要になります。
イプの中を完全に乾燥させるには、イプを切り、内部を開放した状態でさらに数か月間、時間をかけて乾燥していきます。
パウスカートショップで販売中のイプは、収穫後、半年以上乾燥したものを使用し、楽器としての製作過程で、さらに3か月以上乾燥させています。乾燥状態の良いイプは、とてもよい響きで鳴りますので、ご購入いただいた後も、できるだけ風通しの良い場所で保管されることをお勧めいたします。
イプは天然のものなので、どうしても消耗し、いずれは割れてしまいます。特に、温度・湿度の変化や経年によって、自然に表面にひび割れが入る場合があります。
表面のみのひび割れは音には影響ありませんので、そのままお使いいただけます。このひび割れを予防・防止する方法としては、ラッカーや塗料で表面を固めてしまう方法があります。ただし、表面を固めてしまうと、イプ本来の響き・振動を妨げてしまうため、音色が悪くなってしまう場合があります。
表面だけでなく、内部まで届くひびが入ってしまったものは、修理が必要です。修理ご希望の際は、フラ楽器の修理についてをご参照ください。
「合成塗料を塗るか、天然オイルにするか」は、お客様からのお問い合わせで非常に多い質問です。これは、購入後、どのようにメンテナンスをしていくか、というお客様ご自身の考え方や、ハラウの指針によって答えが変わってきます。
パウスカートショップでは、表面に合成塗料(ニス、アクリルラッカー、ウレタンクリア、デニッシュオイル等)を塗布していないイプを多く扱っています。塗料によっては、表面のメンテナンスの妨げになることや、踊っている途中で手汗で滑り、落としやすくなってしまう場合があるからです。
また、前述の通り、完全に乾燥していない状態のイプに合成ラッカー加工をすることは望ましくありませんので、完成までにより時間がかかってしまいます。
お客様から申し出があった場合は、ラッカー対応することも可能です。合成塗料で仕上げる場合は、オイルを塗ったりするお手入れはほぼ必要ありませんので、メンテナンスはとても楽です。アウアナで使用するハラウにとっては「光って見えたほうがよい」ということで、塗料仕上げを好む方もいらっしゃいます。合成塗料は日焼けしやすいため、長時間直射日光にあてることは避けてください。
どちらを選ぶかは、ご自分の Kumu Hula にご確認ください。
古代ハワイから続く伝統的なメンテナンス方法で、一般的に用いる方法です。ククイオイルを軽く塗布し、手、もしくは布で擦り込みます。ククイは自然素材ですので、イプに影響を及ぼすことなくイプを保護します。ククイオイルのような天然オイルは自然分解しやすいため、目安として1か月〜2か月に1回程度、適宜様子を見ながらメンテナンスすることをお薦めいたします。
余談ですが、ハワイ人にとってのククイオイルは、顔、体、髪の毛のトリートメントに用いられるだけでなく、食用、食用油としても使用されています。ククイは、英語で「キャンドルナッツ」と呼ばれ、オセアニアや東南アジアの国々でも、ハワイ同様、日常的に料理などにに用いられています。
アマニ油(亜麻仁油)は、ロングオイル(残効性のあるオイル)です。乾性油(乾きやすい油)で、塗った後は表面に光沢が出ますが、幾分ざらつきと、べたつきが残ります。
また、アブラギリの実から抽出したキリ油(桐油)は長い期間のツヤを保持するオイルとして、よく用いられています。ククイもアブラギリも同じトウダイグサ科ですが、キリ油は、毒性が高いため、当店では、素手でイプを使用するには不向きと判断しており、使用していません。
イプは、大きいから重い、小さいから軽い、ということはありません。むしろ、小さいものの方が重い場合もあります。同じウリ科の、カボチャ、スイカ、などを思い浮かべてください。小さいものは、大きいものと同じだけの皮の厚さがあり、柔らかく食べられる部分は少なかったりします。イプも同様で、小さいもイプでも、大きいものと同じだけ果皮の厚さがあります。かえって重く感じ、硬いイプができ上がりるため、音もあまり鳴りません。
イプを選ぶときは、大きさではなく、音の質で選んでください。
よく皆さんが勘違いされることですが、「イプの首の部分が細いと握りやすいだろうから、選ぶときは首が細いものを選ぶ」のは間違いです。
イプを叩く時は、基本的に、首の部分をぎゅっと握ったりしません。これは、イプがゴードドラム(ひょうたん太鼓)と英訳されることに秘密があります。フラで使うイプは、太鼓(ドラム)で、その本体すべてに音を響かせます。イプ全体が太鼓の皮だとお考えください。太鼓の皮に触れる手の面積が大きければ大きいほど、音がミュート(消音)されます。
また、クビの部分は細ければ細いほど、空気の出口が小さくなり、音が鳴りにくくなってしまいます。小太鼓と大太鼓では大太鼓のほうが音が大きく鳴る、というのと同じことです。折角いい音が出ても、出口が小さいと、音が抜けませんので、クビが細いものを選ぶ利点はあまりないのです。
イプには必ずカウラが必要です。手とイプを固定するために利用するものであって、どんな体勢でイプを叩いても、手からイプが外れないようにするためのストラップです。そのためカウラには、収縮性のある紐ではなく、ラウハラ、ラフィア、綿生地で編んだものを使います。
カウラが無ければ手からイプが離れますが、カウラがあればイプをぎゅっと握り続ける必要はありません。カウラは手首とイプを固定するために、長めに、それも手首に食い込まないよう、括りつけるようにする必要があります。
また、前項で述べたように、なるべく消音させずに大きい音を響かせるために、カウラは必要なものです。
ハワイや東南アジアで商業用に作られ、ハワイで販売されているラッカー仕上げのイプヘケオレには、そのクビの部分に穴が開けられ、カウラと呼ぶには程遠いような紐が付いていることがあります。残念ながら、このような状態では、カウラ(ストラップ)としての本来の意味を成しません。購入したときにロープのようなカウラが付いているのは、実は「ラッカー吹き付けたり、仕上げをした後、天井に吊るして乾かすため」です。つまり、フラとは無関係なのです。そのロープを手首に巻いてもカウラの代わりにはなりません。
カウラ(Kaula=ストラップ)のメンテナンス
イプヘケを使用していると、カウラの編み目が少しずつ詰まってくるため、手とカウラのフィット感に余裕ができて緩くなったと感じるようになってきます。特にインターロックタイプのカウラは、その緩みが顕著になってきます。このような場合は、カウラの編み直しをお勧めいたします。
パウスカートショップでご購入いただいたイプ・イプヘケのカウラについて、ご自分でのメンテナンスが不安な場合は、編み直しまたは新しいカウラへの交換を別途オプション(有料)にて承ります。往復の送料はお客様負担となります。他店でお買い求めのイプヘケへのカウラはお作り致しませんのでご了承ください。メンテナンスご希望の場合はこちら。
なお、メンテナンスは、全国で行っているワークショップ時にもお受けしています。ワークショップご参加時に、ワークショップ会場にお持ちいただければ、その場もしくはお預かりしてお受けすることが可能です。ただし、スケジュールや材料などの都合により、お受けできない場合もありますので、ワークショップお申し込み時にあらかじめメンテナンスの希望がある旨、ご相談ください。
主なクムフラ
Kumu Hokulani Holt (ホークーラニ・ホルト)
Kumu Chinky Mahoe (チンキー・マーホエ)
Kumu Twyla Mendez(トワイラ・メンデス 1984年ミスアロハフラ)
Kumu Hi'ilei Maxwell-Juan (ヒイレイ・マックスウェル・ヒュアーン)
Namakana Davis-Lim (ナーマカナ・デービス・リム 2006年ミスアロハフラ)
協賛したコンペティション(優勝ハーラウおよび入賞者。主なコンペティションのみ記載)
Ku Mai Ka Hula
Hula O Na Keiki
全日本フラ選手権